2019ゴールデンウィーク九州ツーリング<3日目-その1>
三日目の朝、体力の回復を優先して起きられる時刻に起きるつもりであったが、鉄輪温泉の入浴施設の営業が開始するころに自然と目が覚める
着替えを持ち、パラつく雨の中、就寝前に教えてもらっていた「鉄輪むし湯」へと向かう
到着したのは開店から十数分ほどであったが、その時点で既にロビーで順番待ちをしている客が数組あった
このむし湯は、その特性上、一度には入れる客の数が限られているのだ
ゲストハウスで貰った割引券で受付を済ませ、しばらくロビーで待っていると、従業員のおばちゃんから声がかかる
脱衣所に入ると、まずは真っ裸になるように言われ、浴場で下半身を洗ってから浴衣を着るように指示された
浴場から脱衣所を挟んで反対側にはむし湯のための石室があり、浴衣を着た状態で先客が出てくるのを待つ
タイマーが鳴って先客が出てくると、入れ替わりで入室する
陶芸の窯を思わせるような天井の低い石室へ、蒸気を逃さないためか輪をかけて背の低い扉を潜って入ると、床には薬草が敷き詰められていて、そこへ浴衣姿のまま仰向けで寝そべる
もそもそ蒸し湯というものを体験したことがこれまでなく、概要を聞いてサウナの類似品くらいに考えていたのだが、そう単純なものではなかった
一番大きな違いは、サウナに比べてまったく息苦しくないところで、1回の入室は8分と決まっているらしかったが、それを過ぎてもまだまだ入っていられるような気がした
ただ、サウナ以上に滝のような汗が流れ出すため、長時間の入室は脱水症状の危険がありそうだ
8分という時間が体にとっても、客の回転という意味でもちょうどいいのだろう
その後、もう一度浴場で体を洗い流し、通常の湯船に浸かる
薬草の成分が浴衣越しに体に染み込んで健康に作用するということで、当然そこまで即効性の効能は感じられなかったが、入室前に飲んだ500mlの水が全て流れ出たのではないかというくらいに汗をかいたおかげで、何にせよ風呂上りには眠気も疲れも洗い流されたような爽快な気分になった
ちなみに、ロビーの冷蔵庫に「湯涌蒸プリン」なるものがあり、折角なのでと食べたところ、かなりの美味だった
鉄輪むし湯を後にし、プリン以外にも何か腹に入れられる場所はないかと辺りを散策したが、早朝から開店している飲食店は見つからず
たまたま朝食を取れる店がないかと尋ねた商店のおばちゃんが「うちで売ってるせいろ蒸しが朝食にちょうどいいから」と言うので、それを用意してもらい、再び散策へ
特にこれといったものもなく蒸し上がりまでウロウロ時間を潰して、肉まん、トウモロコシ、サツマイモ、卵の入ったせいろ蒸しを受け取り、ゲストハウスへ戻り食べることにした
正直に言って地元向けの商店が片手間にやっている観光客向け商品と思い、そこまでの期待はなかったが、これが中々どうして十分満足できるだけの美味さと量だった
ゲストハウスへ戻るとオーナーと共に活動を開始している宿泊客の姿も増えており、談笑しながらの朝食となった
実は私はゲストハウスの利用は初めてであったが、オーナーも宿泊者も互いに干渉しすぎず、かといって無関心なわけでもない、絶妙な距離感を保っており、キッチリとサービスの行き届いた旅館とも、良い意味で馴れ馴れしい民宿とも違い、なんとも居心地のよい空間だった
北海道などで、一夏の間中、同じゲストハウスに宿泊して「ぬし」と呼ばれるようになる者もいる、などという話を聞いたことがあるが、賛同はしないが気持ちはわからないでもないような気がした
さて、そんな鉄輪ゲストハウスを名残惜しみながらも出発した後は、地獄めぐりに向かうことにした
流石にすべての地獄を巡るのには時間が足りなさ過ぎるため、次の目的地である湯布院へ向かう道中にあるエリアに絞り、少し離れた場所にある血の池地獄、竜巻地獄は今回は諦めることとなった
まずは国指定名勝である海地獄へ向かう
もうもうと湯気を噴き上げる温泉の色は、まさにサンゴ礁のある海を思わせる淡い青色で、自然からこういう光景が出来上がるというのは率直に驚きを覚えた
17世紀末には既に地獄と呼ばれていたそうだが、現代において科学的な解説を聞いた状態で見ても異界の感があるこの光景、先人たちの目にはこの世ならざる場所に映ったのも想像に難くない
なお、併設の土産屋の二階にある資料館は割と凝った造りになっており、地獄めぐりの歴史や温泉の原理なども分かりやすく解説してあり、案外楽しむことができた
続いては鬼山地獄、分かりやすく言い換えるとワニ地獄である
温泉の熱を利用して、本来熱帯に生息するワニを飼育している
見所は・・・ワニである
というかワニしかいない
そしてワニたちはほとんど動かない
夏場になり、気温が上がってくれば、もう少し活発な姿を見せてくれるのだろうか
400円の入場料を払う価値があるかどうかは考え方次第だが、世界最長寿記録を持つイチロウという名のイリエワニの剥製の巨大さと、そのイチロウの飼育は大正14年から、ワニの飼育自体は大正12年から続いているという情報には凄みを感じた
ワニ好きな人にとってはとても楽しい地獄かもしれない
もっとも、ワニだけを目的とするならバナナワニ園のようなところへ行ったほうが正解な気もするが