2019ゴールデンウィーク九州ツーリング<3日目-その2>

地獄めぐりは海地獄と鬼山地獄のふたつで切り上げることにして、湯布院へ向かう
まずは昼食
大分名物のとり天を食すべく、T君が探してくれた「麦とろ家」という店へ
注文したのはとり天ととろろの定食
とり天もよかったが、とろろが美味かった
東京とは出汁が違うのかもしれない
食後、この日から連泊するビジネスホテルに確認の電話
また、宿泊予定であった高千穂町のキャンプ場へとキャンセルの連絡も入れた
キャンセル料等はなかったが、もしキャンプ場ではなくホテルや民宿などを取っていたら、と考えると、やはりロングツーリングはなるべく直前まで行動を縛られるような予約をしないというのが理想だと感じた
今年のGWが特別な面もあるだろうし、当然目的地によってはやむを得ない場合もあるだろうが

腹を満たした後は、雨で走りを楽しめない日程の中、その日メインとなるであろう「岩下コレクション」へ到着
空模様もあってか、駐車場に止まっているバイクもそれほど多くはなく、館内もゆったりと見学することができた
私は「時価2億円のバイク」があるという情報しか入れていなかったので、はっきり言ってそれほど期待もしていなかったのだが、その予想は良い意味で大きく裏切られた
まず1階にある、昭和の文化財のような物を集めた昭和レトロ館
映画や音楽などの芸能関係のグッズ、当時の生活を伺わせる雑貨や家具から家電、著名人の私物や時計、カメラ、レコード、玩具、模型などのコレクターズアイテム、果ては高級車から航空機まで
正直に言うとその後に見学するバイクコレクションよりも、このレトロ館の方が満足感があった
解説文などは一部の展示物を除き無かったが、古い雑誌やポスターを見ると、その所蔵数の多さによって当時の流行やその移り変わりが読み取れ、民俗資料の展示としても楽しめた
もちろん、上階にあるバイクの展示も退屈というわけではなく、希少なビンテージ車両の実物を見られるだけでも価値はあるはずだ
伝説的な有名車種もいくつも展示してあったが、写真を見るのと実車を目の前にするのとでは大きく印象が異なるものも多数あった
そして目玉の2億円バイク、ドゥカティ・アポロは、流石に金網の付いたケージの中に鎮座していた
2億円という価格も市場に流通しているわけではない以上、明確な根拠のあるものではないだろうし、設定が妥当なものだったとしても、それはデザインや性能の素晴らしさよりも、希少性に寄る部分が大きいはずだ
個人的な感想としては、そこまで飛び抜けた存在感があるわけではなかった
が、書き添えられたこの車両の開発の意義や、海を渡って本国イタリアで展示された過去、単なるハリボテではなく自走が可能なまでに状態を保たれているという事実が、価格はともかくこのバイクが唯一無二の価値を持つことを裏付けていた
一通りの展示を見終わり、ロビーでハンドドリップのコーヒーを頂く
その辺の喫茶店よりも数段美味いコーヒーだった
見て回っていた時間は1時間半から2時間程度だったと思うが、端からは端までじっくり眺めていけば、もう1、2時間は楽しめるのではないだろうかという充実度だった
これが一代で収集されたもので、しかも従業員の方の話によると、バイクについては展示されているものは膨大なコレクションの中の3分の1程度であるという話に改めて驚愕する

というわけで、この日の主目的を大満足のうちに果たし、あとは熊本のホテルまで移動するだけ
やまなみハイウェイは避けて、国道で小国まで出てからミルクロードを通り熊本を目指すことに
これが初日に次いでこの旅のトラウマとなる
小国から国道212号を下っていくのだが、まずここの時点で多少の風が出ており緊張が走る
霧も出ていてさほど遠くまで見通せたわけではなかったが、ほとんど風を防ぐような地形のない平坦な場所を走る道で、雨風に吹き曝し状態だった
ミルクロードに入ると更にこの霧と風、特に霧の掛かり具合が尋常ではなくなってくる
周囲の地形が見えないどころか、現在走っている道の5m先すらもわからないというレベルの濃霧があたりを包み始める
その上容赦なく横風が吹き付ける
いや、横風というよりも下から突き上げるような風で、ホワイトアウトの中でもどうやら尾根道のような場所を走っていることが感覚的に分かる
路面はそこまで悪いわけではなかったが、万が一はみ出せば奈落の底に堕ちていくような感覚に襲われ、体が強ばる
速度を30km/hまで落とし、なんとか目を凝らして中央線を目印に走った
勘弁してほしかったのは何事も無いかのように無灯火で走り抜けていく対向車
急に霧の中からヌッと車が顔を見せるたびに心拍数が跳ね上がる
初日の伊勢湾岸道のような死の恐怖を感じるタイプのシチュエーションではなかったが、ずっと凝らし続けた目をはじめ、肉体的にも精神的にも磨り減る道程だった
阿蘇市を抜けるころには霧も晴れ、雨も上がったが、相変わらず風は強かった
国道に出て、東京ではあまり聞かないような沿道のローカルチェーンや、熊本ご当地グルメの「ちくわサラダ」とやらを出すらしい弁当屋の「ヒライ」など、目に入ったものについてインカムでペラペラと他愛ないやり取りをしながら西進する
大体、目に付いたものをそのまま話題にしているときは、脳にだいぶ疲労が溜まっているときだ
それでもインカムがあったおかげで、かなり眠気を散らす助けにはなった

そんなこんなでまだ辺りが暗くなる前に予約していた「熊本ホテル オークス」へ到着した
前日の予約だったのでサービスや部屋のクオリティは多少諦めていたのだが、予想に反してとても良いホテルだった
部屋もゆったりとしていて落ち着く内装で、洗面所風呂場も清潔だし、サービスに関しても様々面倒な注文をしてしまったがひとつひとつ応えてもらえて有難かった
部屋に入って着替えや荷物の整理を済ませ、一息ついてから夕食へ町へと繰り出す
事前にネットで調べていた人気の店は、やはり予約客で埋まっているところもあり、アーケードの周辺をウロウロ
なんとなしに郷土料理の文字が貼ってあったところで「魚河岸 番屋」という店に入った
席に着く前に、焼き物は注文が溜まっていて時間がかかるので・・・と言われた
熊本といえばやはり、ということで馬刺しを中心に何点か注文
馬刺しを食べるのは久々だった
この前週に同じくT君と一緒に鯨を食べに行っていたのだが、馬は牛豚などより鯨に近いと感じた
そういえば昔、クジラは地上に上がった哺乳類の中で馬の祖先に当たる種が再び海中に戻るように進化したもの、と何か図鑑のようなもので読んだ気がする
・・・と、調べ直したら、現在ではクジラはウシやブタ、ラクダ等と合わせて鯨偶蹄目という分類になり、ウマは奇蹄目で別に生物的には牛豚より近いというわけではないようだ
記憶が違ったか、いつのまにか分類学の側が変化していたのかは分からない・・・
まあ生物的に近いからといって似たような味がするとは限るまい
ちなみに馬刺しはタテガミという、その名のとおりたてがみの生えている部分の肉が、一番美味かった
噛むと甘い脂がジュワッと染み出るあの感じは、やはり鯨の本皮に近いと思う
馬刺し以外で注文したものだと「シャク」という謎の生き物の天麩羅が美味かった
シャクというのはシャコの熊本方言か?と思っていたが、どうやらこれもシャコに似ているが別の種類の生き物らしい
全国的にはアナジャコという名で通用しているらしい
殻ごとパリパリと食べられるのはソフトシェルクラブの感覚に近いかも知れない
流石に予算的に馬刺しで腹一杯、というまでは行かなかったが、おおよそ熊本のベタな郷土料理は抑えただろうといったところでご馳走様でした
帰りにドンキホーテに寄り、翌日に備えて折りたたみ傘を購入してからホテルへ戻った

翌日は熊本観光ということで、そこまで早起きする必要も無い
部屋に帰ってからは、前日、前々日と比べて非常にゆったりと、悪く言えばダラダラと過ごした
風呂も都内のビジネスホテルに比べれば十分な広さで、お湯を張ってゆっくりと入ったり、テレビを流し見しながら観光情報を眺めたりする
私は個人的に新日本プロレスワールドでその日の大会のタイムシフトを見ていた
これがなんと熊本大会「レスリング火の国」!
何の因果か熊本のホテルでその日熊本で行われたプロレスの大会を見るという珍風景になってしまった
よくある 17:30開場 18:30開始 の大会なら一か八か当日券狙いで会場へ足を運んだかもしれないが、この日は 13:30開場 15:00開始であった
タイミングがいいのかわるいのか
実はホテルに入る直前に通りかかった、別のホテルの前に新日本プロレスのロゴ入りのバスが止まっていたのを目撃していたのだ
ちょうど試合を終えたレスラーたちが、次の巡業地、大分に向かうべく乗り込んでいたところだったのだろう
大会日程が一日ずれていて、翌4月30日が熊本大会開催の日だったら完璧だったんだがな
・・・とたらればを思いながら、それでも推しのジェイ・ホワイトがメインの試合で勝ったのを見届けてから、流石に昼間の疲れに体が限界を迎えて眠りに入ったのだった